三度の飯より魚介好き

旬と日本人の食文化を考える

知っているようで意外と知られていないスズキさんの実態

ズズキ(鱸)は、今や、シーバス(Seabass)の名で呼ばれるのが一般的かもしれません。ルアーフィッシングの獲物として、釣り愛好家にも人気の魚です。

魚類の世界でもスズキは多数派

魚類図鑑を眺めると、科や目に、矢鱈と「スズキ」の字が目立ちます。まるで日本人のようです。

実はスズキの仲間は、淡水産の1,000種以上を含め、約8,000種もいます。ここでは、スズキ目 スズキ科 スズキ属の1種を慣習的に「スズキ」と呼びますが、このスズキ以外にも、同属にはヒラスズキやタイリクスズキがいますし、スズキとそっくりのヨーロピアンシーバスなどは、分類上は別の科として扱われています。

 

しかもスズキは出世する

ブリやボラなどと同様、スズキも出世魚として知られています。まるでサラリーマンのようです。

地方によって差はありますが、成長するに従って

コッパ・ハクラ→セイゴ→フッコ・ハネ→スズキ

と呼び名が変わります。概ね15cm以下がコッパ、20~30cm 程度がセイゴ、 40~60cmがフッコ、それ以上がスズキです。

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産地など

釣り、巻き網、定置網などで漁獲されます。2016年におけるスズキの漁獲量は、全国で計7,400t。都道府県別にみると、千葉県、兵庫県、愛知県の順で、このトップ3で全体の42%のシェアを占めます。

【出典】農林水産省 漁業・養殖業生産統計

 

旬は夏

北海道南部から九州までの沿岸から朝鮮半島から沿海州にかけて分布し、海だけでなく、暖かくなると河川を遡上したりすることが知られています。大きいものだと1mにもなるスズキの寿命は、10年程です。幼魚のうちは小さな甲殻類などを主に捕食し、大きくなると小魚も捕食するようになります。昼間よりも夜の方が活発に活動します。

スズキはややスリムな形で背は黒っぽく、体側から腹にかけて銀色に光っています。セイゴの時期は、側線から上に黒く小さな斑点が付いているものもいますが、成長するとともに消えます。

頭部は割と大きく、顎が大きく受け口です。エラ蓋の後方に鋭いトゲがあり、また、第一背ビレや腹ビレ、尻ビレの棘条(きょくじょう)は非常に鋭く硬いので、実に取扱い注意!な魚です。

産卵期は冬ですが、身質が旨くなるのは夏ですので、旬は夏というのが一般的な捉え方です。

 

栄養豊富な白身魚

ビタミンA、D、オレイン酸、パルチミン酸、DHA/EPAなどの多価不飽和脂肪酸を豊富に含みます。また、白身魚全般に言えますが、ATP(adenosine triphosphate、アデノシン三リン酸)という物質を多く含みます。このATPは筋肉を引き締める効果があるので、「洗い」にした時にすると身がしまり、独特の食感を生みます。

 

美味しい食べ方と調理のポイント

スズキは上質な白身で、鮮度が良い生の身は、適度な食感がありながらも硬すぎず、独特の風味が楽しめます。ただ、海と汽水、淡水を行き来するので、個体によっては川魚特有の泥臭い匂いがするものもあります。

鱗は小さく取りやすいですし、骨もあまり硬くないので、調理し易い魚です。ただ皮は厚くて強いので、工夫が必要です。

また、幼魚、若魚、成魚、成熟した大型魚(腹太)では味わいが大きく異なるので、いろいろ試してみると楽しいと思います。

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生食

刺身で特有の香りを楽しむもいいですが、活のものが手に入ったら「洗い」に挑戦してみましょう。死後硬直が始まる前に三枚に卸して皮を引き、薄くへぎ造りにして流水で洗い、最後に氷水でしめます。旨みを洗い流しているはずが、甘味と、夏らしいさっぱりとした清涼感が残ります。

 

カルパッチョやマリネ

カルパッチョの場合は、ガーリックやローズマリーなどのハーブを利かせることでより美味しくなります。セビチェもなかなか結構です。スズキを薄く切り、紫玉ねぎを敷いた上に乗せ、上から青唐辛子を散らしてライムを添え、振り塩をしてライムをしぼり、混ぜ合わせて少し置きます。南米などでは定番のマリネです。

 

煮付け

脂がのった腹の部分をこってりと甘辛く煮上げ、やや濃いめの味付けにしてみましょう。酒の肴にも、ご飯のおかずにも向く一品です。セイゴはややあっさり目の味付けで煮つけるか、シンプルにアクアパッツアにすると、とても旨いです。

あらは捨てずに、煮付けにしてみてください。とても旨い出汁が出ます。

 

汁もの

あらの活用法として、潮汁や味噌汁も定番です。

湯通ししたあらを、冷水に取り、鱗などを取り、水分をよく切った後、昆布だしで煮だして塩・酒で味つけすると潮汁の出来上がりです。少し鮮度の悪いものや泥臭さが気になる場合は、昆布だしで煮だして味噌を溶いて、味噌汁にします。

また、大形のスズキなら、腹腔膜の潮汁も大変旨いです。内臓を包む腹腔膜を適宜に切り、昆布だしで煮だして塩、酒で味つけするだけですが、独特の食感と旨みが堪りません。実に捨てるところのない魚です。

 

蒸しもの

皮をひいてから野菜やすり身を巻いて、蒸しものに仕上げることもできます。塩胡椒して皮ごと蒸した上から、煙が立つくらい熱した胡麻油をかけて食べるのも、中華などの定番料理です。

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焼き物

塩焼きはシンプルにスズキそのものの旨さが味わえます。一夜干しにすると更に旨みが引き立ちます。スズキは皮に独特の風味がありますので、工夫していただきたいものです。皮目をカリッとポアレしてバジルオイルソースで仕上げたり、皮付きのまま塩胡椒し小麦粉をまぶしてじっくりソテーしムニエルにしても旨いです。

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幽庵焼き

三枚に卸した切り身を酒、味醂、醤油で一日漬け込んでじっくりと焼き上げます。スズキの独特の風味がまろやかに味つけされ、旨いです。

 

揚げもの

三枚に卸したフィレを、唐揚げにしても旨いです。小さく切って唐揚げにしてから、野菜などと炒め合わせたり、あんかけにしても旨いです。また、やや細長く切り、パン粉をつけて揚げてフライにしても、上質な白身の旨さを味わえます。

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如何でしょう。

上品な白身でありながら、タイやヒラメ程お高くもないスズキ。様々な料理でおいしくいただけるのですから、もっとメジャーになってもいい存在だと思います。