三度の飯より魚介好き

旬と日本人の食文化を考える

胡麻鯖は 胡麻で鯖を和えるけど 使う魚は ゴマサバじゃない

サバは、昔から日本人になじみの深い魚です。一般にサバといえば、マサバとゴマサバの総称です。

かつては大衆魚の代表でしたが、漁獲量の低下や生食需要の伸びから、最近は高値の魚になってきました。

 

福岡の「胡麻鯖」はマサバで作る

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料理の「胡麻鯖」をご存知でしょうか。生の鯖を、胡麻と甘口醤油ベースのタレで和えた、福岡の名物料理です。

この「胡麻鯖」に使うサバはマサバで、ゴマサバは使いません。紛らわしいハナシです。

日本経済新聞 2015年10月7日の記事が解りやすいので、ほぼ原文のまま抜粋・引用します(漢字表記など一部変更)。

博多の名物料理は数あるが、福岡転勤族を驚かせるのが「胡麻鯖」だ。生のサバに九州特有の甘口醤油をベースにしたタレをかけ、胡麻をまぶしワサビを乗せて口に運ぶ。滑らかな食感のサバはかみ応えもあって臭みもない。こんなにすてきな食べ物がなぜ福岡県外では食する機会が少ないのか。

サバにはマサバやゴマサバなど種類があるが、実は「胡麻鯖」には「ゴマサバ」は使わない。ややこしいが、「胡麻鯖」は「マサバ」で作る。マサバに胡麻を振って「マサバなのに胡麻鯖」という言葉遊びに好奇心が刺激され、調べてみた。

そもそも「サバの生き腐れ」という言葉があるほど足の早いサバを、なぜ平気で生で食べられるのか。そこには2つ理由がある。一つは良質の漁場が近く、取った魚を半日後には食卓に並べられる恵まれた環境だ。もうひとつが、食中毒の原因となる寄生虫アニサキスの種類の違いにある。東京都健康安全研究センターが全国のサバを調査したところ、太平洋側の主なアニサキス種は内臓から刺し身部分への移行率が約11%だったのに対し、日本海の主な種は0.1%にとどまった。

調査を担当した同センターの村田理恵氏から「アニサキスは酢では死なないので、冷凍するか火を通すしかない。生で食べるのはお勧めしない」とくぎを刺された。健康面の自己管理が大切だが、筆者の周囲でサバにあたった話をほとんど聞かない訳を調査結果を見てなんとなく納得してしまった。

アニサキスに関しては、風説による誤解もあるので、近いうちに一度キチンと記事に纏めようと思います。

 

みんな大好きサバ料理のいろいろ

サバは代表的な青背魚で、甘い脂と、独特の風味の血合い部分に特徴があります。

多価不飽和脂肪酸(DHA、EPA)、ビタミン類(A、B12、D)、ナイアシンを多く含み、血合いには鉄分やカルシウムがたっぷり含まれています。

 

〆鯖

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関西では「きずし」とも呼ばれます。

新鮮なサバを3枚に卸し、塩を振って1時間、その後酢で15分ほど〆ます。最後に小骨を抜き、薄皮を引いて、刺身にします。絶品です。

 

塩焼き

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旬の脂ののったものは、塩焼きにして非常に旨いです。振り塩をして1時間以上置いたものをじっくりと焼き上げます。振り塩をしない素焼きで、醤油や大根卸しでいただくのも旨いです。

 

味噌煮

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サバ類は味噌との相性が抜群にいいです。適宜に切ったサバを一度湯通し、汚れやアクを洗い、これを酒、みりん、水でまず煮ます。7分通り煮上がってから最後に味噌を溶いて煮上げます。一度鍋を冷ますと、味が一層沁みます。軟らかく仕上げるには、強く煮上げないのがポイントです。

 

その他

フライ、唐揚、リエットにしても旨いです。

 

バラエティに富む郷土料理

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前述の「胡麻鯖」以外にも、沢山の郷土料理が存在します。それだけサバが身近で愛されてきた所以でしょう。

バッテラ(大阪)、棒寿司(若狭、京都など各地)、塩鯖を大根と炊いた「船場汁」(大阪船場)、鯖と野菜の煮込み「いり焼き」(大阪、島根)、鯖の鍋「鯖の煮食い」(島根県出雲・岩見地方)、鯖しゃぶ(島根県西ノ島町)、鯖のぬかみそ炊き(福岡県北九州市周辺)など。

 

マサバとゴマサバはそもそもどう違うのか

マサバは温帯から亜熱帯に分布するのに対し、ゴマサバは温帯から熱帯に分布します。ゴマサバが九州などでよく消費されるのは、より暖流系の種であるからです。

マサバとゴマサバは、外見は非常によく似ていますが別種です。単価も違えば(マサバの方が高価)、旬も違います。簡単に違いを纏めます。

 

マサバ(Scomber japonicus)

全長50cm前後になります。産卵期は春~夏です。季節回遊魚で、伊豆半島沖で春頃に産卵し、一旦北上したマサバは、産卵のために9~10月に南下し始めます。産卵前に再び栄養を蓄えた秋~冬が旬です。

産卵直後のマサバの脂肪含有率は低く、市場の評価も低いです。一方、脂が乗った「戻りサバ」(北海道沖、八戸沖、三陸沖、常磐沖、銚子沖、伊豆沖など太平洋各地で水揚げされる「秋サバ」や、九州沿岸で冬に水揚げされる「寒サバ」など)は、市場の評価も高いです。

大分県大分市佐賀関の一本釣り「関サバ」、神奈川県三浦市の一本釣り「松輪サバ」、青森県八戸の「八戸前沖さば」、宮城県石巻金華山沖の大型「金華サバ」、宮崎県北浦町の養殖「ひむか本サバ」など、多くのブランド鯖があります。

 

ゴマサバ(Scomber australasicus)

全長40cm程度。産卵期は12~6月で、3~4月が最盛期です。成長が早く、寿命は6年ほどです。

マサバより脂肪が少ないですが、年間を通じて味が安定しており、通年流通しています。特にマサバの味が落ちる夏にはゴマサバの漁獲量が増え、そういう意味では、夏が旬であるとも言えます。

鯖節の原料に使われるほか、生食、酢締め、塩焼き、煮つけ、竜田揚げなど、幅広く料理に使われます。あっさりした刺身が好みの通人には、マサバより断然旨いと言う向きも多いです。

高知県土佐清水沖合の一本釣り「清水さば」、鹿児島県屋久島近海の一本釣り・活け締め「首折れさば」など、ブランド鯖もあります。

 

ついでに、ニシマサバ(西真鯖、Scomber scombrus Linnaeus)

ノルウェー鯖、大西洋鯖とも呼ばれます。主にノルウェー、デンマーク、オランダ、イギリスから、多くは加工・冷凍され、輸入されます。寒い北大西洋を回遊するので、脂が非常に乗っていて(脂肪含有量でいうと27%、ちなみにマサバは12%)広く便利に使われるサバです。日本近海のマサバとゴマサバの漁獲高減少につれ輸入を増やし、最近では数10万t/年ほども輸入されています。

 

日本のサバの漁獲量はここ40年で1/3以下

前述のとおり、日本近海のマサバとゴマサバの漁獲高は、ここ40年で激減しています。1978年に180万t/年を誇った漁獲高は、最近では50万t/年前後にまで落ち込んでいます。

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マサバ/ゴマサバの漁獲量推移[単位:千t/年]

 

また、これまで太宗を占めていたマサバの漁獲落ち込みを補完するように、最近ではゴマサバが漁獲されるようになってきました。ゴマサバも随分と馴染みの魚になってきた、ということが言えると思います。

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マサバ/ゴマサバの漁獲割合推移[単位:%]

 

【出典】水産庁増殖推進部漁場資源課 平成28年度魚種別系群別資源評価
(注:1973~81年は対馬暖流系群ゴマサバ漁獲量データなし)

 

マサバとゴマサバの判別方法いろいろ

一般に漁業関係者は、体表のゴマ状模様の有無、もしくは胴体の丸さ加減から、マサバとゴマサバを瞬時に判別しています。

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この方法で通常は困りませんが、まれに判別が難しい個体が見られます。また、同属(Scomber属) であるマサバとゴマサバが交雑することもあるので、正確を期すならば遺伝子レベルで解析することが一番です。しかし、遺伝子解析法は高度な技術と分析費用を要する上、大量の標本を迅速に判別するには適していません。

両者のあいだを取って、99%以上の正確性で判別する方法もありますが、これもまた少々煩雑です。

① 第一背鰭の1 ~9 番目の棘の根元間の長さを測定
② 尾叉長(上顎の先端から尾鰭が二叉する中央部の凹みの外縁までの長さ)を測定
①/②の値が0.12 以上ならマサバ、0.12 より小さければゴマサバ

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【出典】徳島水研だより 2014年2月第88号 マサバとゴマサバの見分け方

 

夏には夏らしくサッパリとしたゴマサバを

如何でしょうか。

アニサキス中毒を防ぐため、マサバの冷凍貯蔵が進み通年流通しているとはいえ、安くて旨いゴマサバを見直すのも、悪くないと思います。

夏には夏らしい、サッパリとしたサバをいただきたいものです。