三度の飯より魚介好き

旬と日本人の食文化を考える

土用の丑にはウナギを喰うモノだと、いったい誰が決めた?

熱心な読者の方から、「そろそろウナギを書いて欲しい」とリクエストされました。忸怩たる思いをグッと堪えつつ、「一の丑」である本日、ウナギについて少し書きたいと思います。

 

そもそも「土用の丑の日」とは

「土用」というのは、季節の変わり目にあたる立夏・立秋・立冬・立春直前の、約18日間を言います。ですから、「土用の丑の日」とは、「土用期間中に訪れる丑の日」のことです。2017年の土用の丑の日は、具体的には以下のとおりです:

  • 1月26日
  • 4月20日
  • 5月2日
  • 7月25日
  • 8月6日
  • 10月29日

今年は夏に土用の丑の日が2回あります。7月25日が「一の丑」で、8月6日が「二の丑」です。

 

「土用の丑の日」には何故ウナギを食べる?

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いつの頃からか私たちは、土用の丑の日にはウナギを喰うもんだ、と疑いもせず信じ込んでいます。しかし、この「強迫観念」の正体は、ある仕掛けられた「セールスプロモーションの結果」なのです!

土用はそもそも季節の変わり目に当たりますし、夏場は特に体力が衰える季節ですから、滋養のある食べ物を摂ろう、という意図は理解できます。実際、疲労回復や食欲増進に効果的なビタミンAやB群などを多く含み、かつ消化吸収が良いウナギは、夏バテ防止にはピッタリの食材と言えます。

しかし一説によれば、蘭学者の平賀源内が、鰻屋から「夏に売り上げが落ちる」と相談を受け、夏場が旬でも何でもないウナギを売らんがために、店先に「本日丑の日」と貼り出したのが、「土用の丑の日」にウナギを食べた始まりだと伝えられています。こんなコピーライティングが原因だったのです!

ちなみに、「丑の日」なので「う」のつく食べものを食べると病気をしない、という言い伝えもあります。先日放送されたみをつくし料理帖の「う」尽くしの回では、卯の花和え、梅土佐豆腐、瓜の葛ひき、埋(うず)め飯、梅の蜜煮などの料理が紹介されていました。この他にも、うどん、ウサギ、馬肉、牛肉など、何でもよかったらしいですよ。全くいい加減でおおらかな先達です。

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ところでウナギの旬はいつなのか

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天然ウナギの旬は秋~冬

天然ウナギの漁は5月頃~12月ですが、旬は秋から冬にかけてです。

特に水温が下がりはじめる10月頃が旨いとされています。というのは、ウナギは、水温が10℃以下になってしまうと、摂った食物を充分に消化吸収することができなくなり、泥の中に潜んで冬眠する習性をもっているからです。この冬眠に備えてたくさん栄養を蓄えた個体が旨い、という訳です。

また、産卵のため川を下る「下り鰻」も旨いとされています。川や湖で5~12年かけて成長し、産卵のため川を下り出す個体が、やはり栄養を蓄えて旨い、という訳です。8月末以降、身全体に脂がのってきた下り鰻は、台風や大雨の翌日以降、産卵のために川を下ります。

 

養殖ウナギには旬はない

一方、ビニールハウスなどで一年中徹底した温度管理のもとで養殖(正確に言うと「蓄養」)されるウナギには、季節による味の差はありません。つまり養殖モノには特定の旬はない、ということなのですが、夏の土用期の需要に合わせて大量に出荷されるので、夏(6~8月)頃が旬だという風説も、一部では流布されているようです。これはトンでもない大嘘ですよ!

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ますます希少になる天然ウナギ

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私たちが日ごろ魚屋やスーパーなどで目にする国産ウナギは、ほぼ全て養殖モノです。2016年度の生産統計では、養殖モノの生産高が19千t/年に対し、天然モノの漁獲高は僅かに68t/年! たった0.4%に過ぎません。市場ではこれ以外に、輸入ウナギが相当量流通しているので、国産天然モノは、もの凄くトンでもなく希少だと言えます。

【出典】農林水産省 漁業・養殖業生産統計

 

ニホンウナギは絶滅危惧種

ニホンウナギの個体数は激減しており、2013年2月には、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されました。

更に2014年6月には、国際自然保護連合の最新レッドリストに「絶滅の恐れがある野生生物」として追加指定されました。

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【出典】 海面漁業生産統計 内水面漁業・養殖業魚種別生産量累年統計(種苗採捕量)

 

養殖モノと全く異なる天然モノの味わい

天然モノは、淡白でアッサリしていて、脂が乗っていながらくどさが全くありません。また味に力強さがあります。蒸さずに焼きだけで食べると、その旨さがとてもよくわかります。

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天然モノを喰うべきか喰わざるべきか、それが問題だ

年々減少の一途を辿っている天然ウナギは、まさに絶滅の危機に瀕しています。そういう種を、在るうちに食べたいが、しかしながら種の保存の観点で言うと、受精卵からの「完全養殖」が商業ベースの軌道にのるまで我慢すべきなのかもしれません。非常に悩ましいトコロです。

いずれにしても、もし天然モノを口にするような機会があれば、いのちに感謝していただくことと致しましょう。

でも食べるなら、旬は秋だからね。

 

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