三度の飯より魚介好き

旬と日本人の食文化を考える

偽装のブランドアジ それでもまだブランド信仰をやめない?

マアジは暖かい海を好み、北海道南部から東シナ海までの浅瀬や湾内から深海にいたるまでに広く生息しています。日本では昔からもっとも馴染みのある魚で、釣りの対象としても人気があります。

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回遊性のマアジは瀬付いて脂が乗る

アジ科の仲間は30属150種もいると言われますが、一般にアジと言えばアジ科 マアジ属のマアジ(真鯵)の事を指します。

腹は光彩を放つ銀色で、体長は40cm程になります。ゼイゴという堅くギザギザな鱗が頭から尾にわたって並んでいるのが特徴で、全体に柔らかく薄い透明なウロコも持っています。

マアジは本来回遊性の魚ですが、内湾に住み着いた脂がのった個体を「瀬付きアジ」や「根付きアジ」と呼び、体色が黄色味を帯びることから「金アジ」や「黄アジ」などとも呼ばれています。一方外洋性のアジは全体に黒っぽい色で、常に泳ぎ回っていることから身が締まり全体にスリムで、脂の乗りは少ないです。

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一年中どこかで水揚げされるマアジ

マアジの産卵期は地域によって様々。1月から11月頃と非常に長く、いつもどこかの海域で産卵が始まっている状態で、西日本では年明けから初夏にかけて多く、関東沿岸では初夏から夏にかけて、北海道では8月頃です。

漁期も年間を通じていて、一概にいつが旬とは言えませんが、瀬付きアジは初夏から夏(4~7月)が旬です。春から夏にかけて沢山出回りますが、晩秋から冬の間は漁獲量が減ります。

一方、回遊型の外洋モノは獲れる地方で違います。九州の3月頃に始まり、4月頃には駿河湾沖、房総沖は5月頃です。9月の三陸沖の鯵は脂がのっていて美味しいといわれています。「今の時期、何処で獲れたものが旨いかな」と買う時に意識すると、楽しみが増えると思います。

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漁獲量は安定的に推移

マアジは全国で年間15万tも漁獲されています。多い順に、長崎、島根、福岡となっていて、この上位3県で64%のシェアを占めます。3位以下は福岡県や愛媛県、鳥取県などが同じくらいで、毎年のように入れ替わっていたりします。

(【出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」 2016年12月27日発表】)

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いろんな料理で楽しみましょう

刺身、なめろう、梅煮、トマト煮、塩焼き、香草焼き、ねぎ醤ダレ照り焼き、鯵フライ、素揚げ、南蛮漬け、のりとしその二色揚げ、しそとチーズのくるくる揚げなど、様々な料理にアレンジできます。

是非いろいろな食べ方を試してみてください!

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たかがアジと侮るなかれ! 全国に存在するブランドアジたち

大衆魚の代名詞のようなマアジですが、アジの追及は留まるトコロを知らず、盛んにブランド化されています。

 

ごんあじ [旬:5~6月、10~11月]

長崎の五島灘に生息する瀬付きアジは、小魚や小エビを食べていて丸々と太っています。その中でも、250g以上で、背中から尾にかけて黄金色に輝いているものだけを「ごんあじ」と呼びます。

「ごんあじ」は、まき網漁で漁獲後、速やかに海上の生簀に移します。ここで約1週間、餌を与えず「活かし込み」されます。この「活かし込み」工程によって、漁獲時のストレス(暴れることによる肉質の劣化)を解消し本来のハリやツヤを取り戻し、青魚特有の臭みが少ない個体へと生まれ変わります。また、自分の体に蓄えていた脂を使おうと身全体に万遍なく脂が乗るため、言わば「高級和牛の霜降り」状態の極上のアジになります。

 

旬あじ(ときあじ)[旬:4~8月]

マアジの水揚げ日本一を誇る松浦市。4~8月にかけ対馬海峡から五島灘海域を舞台に、日本遠洋旋網漁業協同組合の所属船団がマアジを漁獲します。その中でも100g以上のものを「旬あじ」と名づけ、ブランド化しています。

「旬あじ」の身は必須アミノ酸をバランスよく含んだ良質の蛋白質を持ち、EPAを多く含んでいるヘルシーな魚。一尾一尾ていねいに釣りあげられ、身の締まり具合、鮮度、脂ののり具合など、その味わい深さが最高と言われています。

 

野母んあじ(のもんあじ) [旬 4~6月、10~12月]

長崎市野母崎町樺島沖に棲息する瀬付きアジを一本釣りしたもので、全長26cm以上、重さ300~500gの巨大サイズだけに限り、「野母んあじ」と長崎の方言で表現しブランド化しています。しかも釣ったマアジには一切手を触れず船内の生簀に放ち、水揚げ後も港の生簀でストレスを解消してから出荷される、という徹底した鮮度管理をしています。

こりこりとした食感、そして脂の乗り具合も絶妙なバランスの「野母んあじ」は、かつて“料理の鉄人”として活躍した中村孝明氏から絶賛され、話題になりました。

 

関あじ(せきあじ)[旬:3〜10月]

速吸瀬戸(はやすいのせと)とも呼ばれる豊予海峡は、瀬戸内海と太平洋の境界に位置し、非常に潮流が速く、また水温の変化が少なく、一年を通して餌となるプランクトンなどの餌が豊富です。この海域の漁は、波が高く海底の起伏が複雑で漁網を使えず、伝統的に「一本釣り」が行われてきました。こうした背景から「関アジ」は生まれました。しかし漁場や漁法だけでなく、漁獲後一定期間生簀で畜養して出荷前に「活け締め」されるなどの管理も徹底されています。

関アジは、脂がのった上に、よく身が締まっています。青魚と思えないすっきりとした旨みは市場から高い評価を獲得しています。

 

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ブランド化の闇! 認定返上に至る偽装が発覚!!

岬あじ(はなあじ)

愛媛県三崎漁業協同組合では、一本釣りで漁獲した300g超のマアジについて「岬あじ」としてブランド化してきました。

しかし、2007~11年に出荷した「岬あじ」の中に巻き網漁によるものが混じっていたことが発覚。この偽装を認めた組合がブランド認定を返上する、という、最悪の顛末に至りました。

www.nikkei.com

愛媛県伊方町の三崎漁業協同組合は同組合のブランド魚「岬(はな)アジ」「岬サバ」について、愛媛県などで組織するえひめ愛フード推進機構の「愛あるブランド産品」の認定を返上した。愛あるブランドではいずれも一本釣りでの漁獲と定義していたが、昨年までに出荷した魚の中に一部、巻き網漁によるものが混じっていたという。

巻き網で取った魚をブランド魚として出荷したことについて同漁協は「一本釣りでの漁獲量が減少し、取引先からの注文に応えきれなかった」としている。

悲しいことに、この手の偽装は実に多いのです。ここ10年に限ってざっと調べるだけでもこんなに。

  • 2008年 中国産ウナギの産地偽装(兵庫・徳島)
  • 2009年 中国産ウナギの産地偽装(東京)
  • 2010年 中国産ウナギの産地偽装(イトーヨーカ堂)
  • 2010年 台湾産ウナギの産地偽装(セイワフード)
  • 2010年 福井県産ブリの産地偽装(氷見産寒ブリと偽った)
  • 2012年 ブランド「岬あじ」の漁法偽装(愛媛)
  • 2013年 ホテル内レストランなどにおける一連の食材偽装(芝エビ/バナメイエビ、車エビ/ブラックタイガー、伊勢エビ/オマールエビ、北海道産ボタンエビやサーモン/外国産、鮮魚/ 冷凍魚など、山ほど出ました)
  • 2017年 ワラサをゴマサバと偽装(静岡県沼津魚市場)
  • 2017年 中国産アキアミを駿河湾産サクラエビと偽装(静岡県下田市)

これ程までに後を絶たないということは、偽装には構造的に問題がある、と見ていいでしょう。数多くの原因があると考えられますが、以下の3点に集約されるのではないでしょうか。

  1. 産地などの管理が専らモラルに委ねられていること[供給サイド]
  2. 安定供給に対する圧力[供給サイド、消費サイド双方]
  3. ブランドや産地を盲信し味など分らない消費者[消費サイド]

1.や3.は何も魚介に限ったことではありませんが、2.は水産物特有の問題で、これが事態を複雑にしている、と思います。

何れにしろ、様々な闇と思惑が交錯する偽装問題は、今後も注視したいと思います。